イチゴの新しい花芽形成法の開発

 イチゴの花芽形成は、イチゴの果実を収穫する上で、必須の過程である。多くのイチゴの品種では、低温・短日が花芽形成に必要な条件である。自然条件下では、秋から冬にかけて、この「低温・短日」条件になるので、農家の人たちは、秋から苗を育てて花芽を付け、12月から4月にかけてイチゴの果実を出荷する。

 ところが、イチゴは病気にかかりやすい。そのため、殺菌剤や殺虫剤を使うが、その一部が果実にも移行して、少量ながら農薬が検出される。日本の残留農薬の規制は緩いので、一般のスーパーなどではそのまま販売されるが、台湾などに輸出すると、台湾の厳しい農薬規制で、輸出禁止となる事例が毎年繰り返されている。イチゴを完全無農薬で栽培するには、植物工場で栽培するのがベストである。

 イチゴを植物工場で栽培するもう一つのメリットは、夏も含めて通年栽培が可能である点である。露地栽培では、イチゴの花芽を形成するために、低温・短日条件を使用するが、この条件は、春から夏にかけては使用できない。そのため、5月から10月頃までの間は、イチゴが収穫できないことになる。植物工場では、通年で同じ条件下で栽培できるから、夏でもイチゴを出荷できる。

 これまで、植物工場でイチゴを栽培する際に、苗を農家から購入する方法が通例であった。しかし、この方法では、春以降に花芽を付けた苗が購入できない。また、苗を農家に依存するもう一つの問題点は、農家が露地で育てた苗には、芽の部分にハダニやアブラムシなどが潜り込んでおり、それを植物工場に持ち込むと、それらの虫が一斉に増殖して、始末に追えない状況になる。さらに、土で育てた苗を十分に洗って、殺菌しても、植物工場で栽培中に様々な病気が出てくる原因となる(一定期間の後、無事に栽培できるのは50-60%程度)。農家の苗を使う、もう一つの問題は、植物工場の栽培条件が低温・短日ではないため、農家が育てた条件下で花芽を付けた分しか、果実が取れないことである。

 このような事情があるため、植物工場でのイチゴ栽培に適した苗の育成と花芽形成方法の開発が求められていた。筆者は、若い頃、アサガオなどの花芽形成を研究していた経過もあり、イチゴの新しい花芽形成方法の開発に取り組んだ。その結果、発芽後の芽生えを、わずか3日間の処理で、「完璧な花芽形成の方法」を、新たに発見した。その方法が、今回特許として認められたので、ここに紹介する。

 植物の花芽形成は、日長性、ストレス、Age などにより決まり、それらの要因に対して、温度(特に低温)、栄養条件(特に窒素欠乏)などの環境条件が影響する。このうち、日長性は、季節の変化に応じて、長日性、短日性がある。短日性は、基本的には夜(暗期)の長さがある時間を超えた時に、花芽が形成される性質であり、自然条件下では夏から秋・冬にかけて、この条件が成立する。一方、長日性は、春から夏にかけて、日が長くなるときに花芽を形成する性質であり、そのうち多くは、冬の低温も花芽形成に必要である。

 花芽形成に対するストレスとは、例えば、赤道直下の熱帯降雨林では、一年を通して夜、昼の長さに変化がなく、日長性は成立しない。ところが、時折、一斉に花が咲く現象が知られており、多くの場合、長期間雨が降らず日照りが続いた後に起こる。このような現象に対して、ストレスで花芽が形成された、という。今年(2026年)の太平洋側では雨が1ヶ月以上降らず、乾燥が続いたが、各地で竹の開花が観察された。これも、乾燥と低温下でのストレスによる開花である。栽培植物におけるストレスによる花芽形成は、あまり研究されていないが、今回のイチゴの花芽形成は、ストレスによるもので、イチゴでは最初の知見である。

 Ageによる花芽形成は、多くの果樹で観察される現象であり、桃栗三年、柿8年、というように、一定の樹齢にならないと、花芽ができない現象をいう。

 先に、「完璧な花芽形成の方法」と表現したのは、誇張ではない。一般に、短日・低温条件下でイチゴの花芽を形成させるには、低温(15°C前後)、短日(12時間以上の暗期)の条件下に、2週間以上おく必要がある。農家は自然条件下で育てるので、放置するだけで良いが、植物工場では、特別な設備が必要となる。しかも、2週間処理した後、通常の植物工場の栽培条件(高温・長日条件)に戻すと、一旦花芽の原基ができた後でも、花芽が退化して葉芽に戻る現象が知られている。それが、農家の苗を導入した場合、花芽(果実)の数が限定される理由である。

 ところが、新しく開発した今回の方法では、発芽した苗に3日間の処理をするだけで、その後、その苗は、出てくる芽が全て花芽になり、どのような栽培条件においても、延々と花芽を付け続けるのである。ランナーにも花芽が付いてくる。すなわち、花芽形成が完全に固定するのである。イチゴ栽培において、これほど有難いことはない。

 このイチゴの花芽形成方法は、今後、植物工場でイチゴを完全無農薬栽培する際に必須の技術となる、と考えられる。具体的な方法は、特許文書に記載されているが、条件の設定に細かい注意点がある。興味のある企業は、問い合わせてほしい。なお、この特許は、(株)いちご研究室と共同出願している。

イチゴの新しい花芽形成法の開発